2日ほど前に強烈な寒気があり、続いて強烈な頭痛、目玉の後ろ側まで痛くなってきたので、さすがに普通の風邪じゃないと思い、近所の医院へ行ってみた。

結果、もう春になるというのに、いま自分は人生初のインフルエンザ中である。


薬をもらっておとなしく寝ていたら、ようやく熱が引いてきたので、久しぶりに携帯をチェックしてみると、彼女からメールがきていた。今日来るみたいだ。

いつも「行きます」という連絡しかこない。今まで別に困ったことはないけれど、今回は遠慮してもらわなくては。

インフルエンザになってしまったので、治ってから来て下さい。


とメールをしたら、すぐに返信が来た。


「ちょうどよかった！　行きます！」


予定の時間より1時間ほど遅れた頃、

「先輩！　遅くなりました！」

マスクをした、元気な彼女がやってきた。


「すみませんこんな格好で。でも私も感染りたくないんで」と言いながら、ビニールの雨ガッパを着、薄手のゴム手袋をつけ、ダブル除菌の消臭剤をシュッシュとあちこちに…　気持はわかるがインフル菌にはこのダブル除菌も効果があるとは思えない。

消臭剤1本分を噴霧し終わり、彼女が近づいてきた。

「先輩、何も食べてないでしょう。習志野産のにんじんジュースを持ってきました」

バイト先の先輩に連れていってもらった「しょいかーご」という店のオリジナルとか。なんでも新鮮な野菜や果物、惣菜などがところ狭しと並んでいて、テーマパークより楽しいのだそうだ。

「ビタミンとらなくちゃ！　おばあちゃんが、自分の住む場所のものを食べているのが一番健康にいいんだって言ってたし」

1缶90円なのに6缶セットだと500円だったこと、レジ袋をいらないと言ったらさらに2円引いてもらえたことなどを興奮しまくりで話しながら、6缶あるうちの1缶を開け、ゴム手袋のままコップに半分入れてくれた。レモンの風味がして、うまい。この1缶でにんじん2本分食べたのと同じビタミンがとれるらしい。缶についてるおばちゃんが元気にそう言っている。

久しぶりに胃の中に栄養が流れ込み、食欲が出てきた。

「あ、そうだ。先輩、おかゆでも作りましょうか？」



えっ…

おかゆということは、もしやあの、
病人のスタンダードナンバー「はい、あーん」もある、ということか！？

彼女がおかゆを作ってくれている間、僕は「はい、あーん」の妄想とともに、また熱を出し始めていた。

萌え系フリルのついたエプロンの後ろ姿とはかなり遠いが、雨ガッパにゴム手袋の後ろ姿もなかなか愛おしく思える。
朦朧とした意識の中で、「はい、あーん」だけが繰り返しぐるぐる回り続ける。

またしても強烈な寒気で目が覚めた。僕は寝てしまったんだ。

ふと目が覚めた時、布団のかたわらには彼女はおらず、ラーメンどんぶりに入ったおかゆと缶のにんじんジュース4本が置かれていた（1本は自分で飲んだらしい）。
換気のために開けっ放しにしてくれていた窓から吹き込む冷たい風に、ジュースはいい具合に冷えていた。


「はやく、よく、なって、ください」と書かれた紙と、玄関に脱ぎ捨てられ丸まったビニールの雨ガッパとゴム手袋を見ながら、冷えたおかゆを食べた。


気持だけはありがたく受け取るけれど、開けっぱなしの窓のおかげで身体の回復はだいぶ遅れたと思われる。
うう…また寒気が…





でも、ありがとう。
このビタミンで復活するよ。

「しょいか～ご」は、JA千葉みらいの農産物直売所。
習志野店は、京葉道路武石インターから八千代方面に少し行ったところにあります。

「地元の農産物を地元で販売する農産物直売所」として、旬の野菜・四季の花々などを中心に販売をしています。

野菜や果物、花の他にも、お惣菜やパンなどもあり、ついつい目移りしてしまう品揃え。
手作り雑貨コーナーには、ほっこりと和むような品々が並んでいました。