プロの受験指導は「足し算」ではなく「引き算」です。
「もっと問題集をやらなきゃ」
「このテキストも買ったほうがいい?」
「塾ならとにかくたくさん教えてほしい」
そう考えるご家庭や生徒は少なくありません。気持ちはものすごくよくわかります。ただ、入試に向けて本当にやるべきことは、むしろ逆なんです。やるべきでないものを削ること。これが受験指導の本質だと、私は思っています。
入試対策は“選ぶこと”より“捨てること”
基本的な考え方はシンプルです。
1. 入試の出題傾向に沿った教材を選ぶ
2. その中から「やらなくていい部分」を削る
3. 残った部分だけを深く・正確に仕上げる
つまり、最初から最後まで全部やるのではなく、「出るところ」を徹底的に押さえる。もっと正確に言えば「出ないところに時間をかけすぎない」。
この“引き算”をやり切れるかどうかが、結果的に「同じ時間でどこまで伸びるか」の差になります。
入試傾向は、勝手には降ってきません
ここでよくある誤解があります。
「塾なら、どこも入試の傾向をちゃんと把握してるんでしょ?」
正直に言うと、そうとは限りません。
塾で働いているからといって、どこかから特別な“極秘情報”が回ってくるわけではありません。傾向は「知っている」ものではなく、「調べている」ものです。だから、どこまで分析しているかは塾によって本当に大きく差が出ます。場合によっては、同じ看板の塾でも教室ごとに差が出ます。
当塾では、例えば公立高校入試について、書店で買える過去問よりも長いスパンで見ています。書店の過去問はだいたい直近4~5年分の掲載が多いですよね。うちではそこからさらにさかのぼって、約15年分を分析対象にしています。さらにそれ以前、20年以上前の問題も資料としては持っていますが、あまり古いものになると教科書内容そのものが変わっているので、参考程度にとどめています。
なぜそこまでやるのかというと、「たまたまの1年」を信じてしまうのが一番こわいからです。
1年分だけ見ると「あ、今年はこの単元が出てないから、ここはやらなくていいんだ」と思ってしまいがちです。でも10年分並べてみると「いやそれ、むしろほぼ毎年出てますけど?」みたいなことが起きます。逆に、「昔はよく出たけど、ここ5年は明らかに減ってる。これは後回しでいいかも」という判断も、長いスパンのデータを見ないとできません。
この積み重ねが、“何を削っていいか”の根拠になります。
数学は「全部やる科目」ではありません
たとえば千葉県公立高校入試の数学。学校では膨大な単元を習いますが、実際に公立入試で問われている範囲を丁寧に数えていくと、すべての単元がまんべんなく出るわけではありません。
ざっくりいうと、出題される単元は全体の4割ほどに集中します。ということは、裏返すと6割近い内容は、過去15年を遡っても出題がありません。
もちろん「6割は完全に捨てましょう」という話ではありません。学校の成績や内申点、推薦、公立以外の併願校などもあるので、雑に切り捨てるのは危険です。ただ「何でもかんでも全部、同じ熱量でやる」のは、効率が良いとは言いにくいということです。
あなたの時間は有限です。だから私たちは、出やすいところを厚く、出にくいところは“必要最低限”にする、という考え方をとります。
逆に危ないのは、自己流の“つまみ食い勉強”
ここまで読むと、
「それなら自分でテキストを削っていけばいいんですよね?」
と思う方もいるかもしれません。
ここには一つ大きな落とし穴があります。
よくあるパターンがこれです。
・参考書を買う
・最初の方はよくわかるから気持ちよく進む
・中盤以降で難しくなって止まる
・「この本は合わなかったかも」と思い、別の本を買う
・また最初のほうだけやって、そこから先は手つかず
これをくり返すと、一見たくさんの本をやってる感じはするのに、どの本も最後まで到達していない=仕上がっていない、という状態になります。特に大学受験でよく起こります。
参考書の世界(特に大学入試)って競争が激しいので、多くの本は「一番自信のある・評価されやすい単元」を冒頭に持ってきます。だから、最初のほうは誰でも「わかる」「できる」「これ最高」と感じるように設計されているんです。そこに安心してしまうと、核心の手前で離脱し、新しいテキストにまた手を出し…という負のループに入りやすいです。
これは“引き算のつもりが、単なる逃避の乗り換え”になってしまう典型例です。
「引き算」の前に必要なのは、土台の“分析”と“覚悟”
だから本当は順番があって、
1. 過去問分析(どこが出るのか・どこが出にくいのか)
2. 自分の現状分析(どこが穴なのか)
3. 教材の取捨選択(どこを厚くやるか、どこを薄くするか)
4. 決めた教材を最後までやり切る覚悟
この4つが揃って、ようやく“プロの引き算”になります。
分析がない引き算は、ただの手抜きです。
覚悟のない引き算は、ただのつまみ食いです。
塾の役割は、その2つを防ぐことだと私たちは考えています。
まとめ
・受験勉強は「どれだけ足せるか」ではなく「どれだけ正しく削れるか」で差がつきます。
・削るには、長いスパンの過去問分析が欠かせません。私たちは約15年分をベースに見ています。
・やるべきことを絞るのは効率的ですが、テキストを途中で乗り換え続ける自己流“つまみ食い勉強”はむしろ危険です。
・最終的に大事なのは「自分に必要なところを決め、そこを最後までやり切る」という設計と覚悟です。
たくさん勉強することは立派です。でも、限られた時間の中で「何をやらないか」を決めることは、もっと戦略的な行為です。
それこそが、プロの受験指導の仕事だと思っています。
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